海鳴り

Categorygallery*短編物語
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誰か
温めの燗と
炙ったイカを
持ってきてくれ…


はい、燗とイカです

お。
お嬢さん、ありがとうよ。
今夜は冷えるねぇ。



こんな寒い夜に、温めなんて珍しいですね。

ははは、そうかい?
今夜は海鳴りがするからね。
こんな日にゃ、優しい酒がいいもんだ。





海鳴り?……おじさん、何も聴こえませんよ。

え?ほんとかい?
おかしいなぁ………ほら、聴こえるだろう?
……ごごぅ………ごごごぅぅ……て。




………やっぱり何も聴こえないわ。

いや、参ったなぁ。
俺の耳がおかしいかい?
あ。
お嬢さん、すまねぇ。
ちょっと付き合ってくれないか?



いやね、ちょっと思い出しちまって。
似てるんだよ、あの娘に。

え?

まあ、これも海鳴りがくれた縁だ。
あの娘に会ったときも、海鳴りが響く日だった。




(略)





……まあ!
それで、おじさんはどうしたの?

いや、もうそれっきりさ。
あのときからもうずいぶん歳をとっちまったから、今さら会えねぇよ。

それでいいの?

それでいいんだよ。
お嬢さん、仕事だろ?
引き留めて悪かったな、ありがとう。
大将によろしく。

(完)













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